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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2017-05-20

中原中也「春の消息」


「未刊詩篇」より




春の消息

生きてゐるのは喜びなのか
生きてゐるのは悲みなのか
どうやら僕には分らなんだが
僕はまちなぞ歩いてゐました

店舗々々に朝陽はあたつて
あはい可愛いい物々の蔭影かげ
僕はそれでも元気はなかつた
どうやら 足引摺つて歩いてゐました

   生きてゐるのは喜びなのか
   生きてゐるのは悲みなのか

こんな思ひが浮かぶといふのも
ただただ衰弱よはてゐるせいだろか?
それとももともとこれしきなのが
人生といふものなのだろうか?

尤も分つたところでどうさへ
それがどうにもなるものでもない
こんな気持になつたらなつたで
自然にしてゐるよりほかもない

さうと思へば涙がこぼれる
なんだか知らねえ涙がこぼれる
  悪く思つて下さいますな
  僕はこんなに怠け者
(一九三五・四・二四)


中原中也 1935 未刊詩篇 



出典:中原中也全詩集 P.770 1972 角川書店


改訂:2018.07.15 アイコン・リンクURL誤記訂正
:2022.06.11 レイアウト更新


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