Click Icon or Scroll up

Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2017-03-06

中原中也「曇天」


詩集「在りし日の歌」より




  曇天


 ある朝 僕は 空の 中に、
黒い 旗が はためくを 見た。
 はたはた それは はためいて いたが、
音は きこえぬ 高きが ゆえに。

 手繰たぐり 下ろそうと 僕は したが、
綱も なければ それも 叶わず、
 旗は はたはた はためく ばかり、
空の 奥処おくに 舞い入る 如く。

 かかる あしたを 少年の 日も、
屡々しばしば 見たりと 僕は おもう。
 かの時は そを 野原の 上に、
今はた 都会の いらかの 上に。

 かの時 この時 時は 隔つれ、
此処ここと 彼処かしこと 所は 異れ、
 はたはた はたはた み空に ひとり、
いまも かわらぬ かの 黒旗よ。


中原中也 1938 「在りし日の歌」



出典:中原中也全詩集 P.238 1972 角川書店

注)出典のルビは奥処おくのみ


改訂:20170307 ルビの誤記訂正 おくが→おく
:2018.08.18 レイアウト更新



0 件のコメント:

コメントを投稿

      ********** 投稿要領 **********
1. [公開] ボタンは記入内容を管理者宛に送信し即公開はしません
 (サイト劣悪仕様により当該文字列変更不能)
2. 非公開希望の場合もその旨記述しこのボタンで送信して下さい
3. 送信された記述内容は管理者の承認を経て原則公開されます
4. 反公序良俗, 政治的偏向過剰, 宣伝, 広告, スパム等は不可
      **********************************