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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

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ホセ・カレーラス「光さす窓辺」歌詞掲載  対訳付き原語歌詞を追記しました (1連のみ)

ハインリッヒ・ハイネ「いと麗しき五月」  この詩の訳にもある助詞 "も" について加筆

2020-02-18

島崎藤村「酔 歌」


詩集「若菜集」より

   光もあらぬ春の日の
    独りさみしきものぐるひ
     悲しき味の世の智恵に
      老いにけらしな旅人よ





酔  歌


旅と旅との君や我
君と我とのなかなれば
酔ふてたもと歌草うたぐさ
めての君に見せばやな

若き命も過ぎぬ
楽しき春は老いやすし
が身にもてるたからぞや
君くれなゐのかほばせは

君がまなこに涙あり
君が眉には憂愁うれひあり
かたく結べるその口に
それ声も無きなげきあり

名もなき道をくなかれ
名もなき旅を行くなかれ
甲斐かひなきことをなげくより
たりてうまき酒に泣け

光もあらぬ春の日の
独りさみしきものぐるひ
悲しき味の世の智恵に
老いにけらしな旅人よ

心の春の燭火ともしび
若き命を照らし見よ
さくまを待たで花散らば
かなしからずや君が身は

わきめもふらで急ぎ行く
君の行衛ゆくへはいづこぞや
琴花酒ことはなさけのあるものを
とゞまりたまへ旅人よ




島崎藤村「醉歌」詩集:若菜集 より



出典:藤村詩集 - 島崎藤村自選 改版 1995 岩波書店
参照:学研 全訳古語辞典 改訂第二版 2014 学研 (全訳)


注)歌草=歌の草稿, 歌の下書/メモ(俗解)
注)見せばやな=みせたいものだ(全訳)
注)かほばせ=顔だち, 顔つき(全訳)
注)ものぐるひ=正気でなくなること, 狂気(全訳)
注)老いにけらしな=老い + に〔格助詞•変化の結果•…の状態になった〕+ けらし〔助動特殊•推定•…かのよう〕+な〔格助詞•体言に付き(連体修飾語を作る)•な〕 年老いたかのような(全訳+俗解)
注)琴花酒=耳によいもの,目によいもの,舌によいもの,それらの総称(俗解)




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