雨の言葉
わたしがすこし冷えてゐるのは
糠雨 のなかにたつたひとりで
歩きまわつてゐたせいだ
わたしの掌は 額は 湿つたまま
いつかしらわたしは暗くなり
ここにかうして凭れてゐると
あかりのつくのが待たれます
そとはまだ音もないかすかな雨が
人のゐない川の上に 屋根に
人の傘の上に 降りつづけ
あれはいつまでもさまよひつづけ
やがてけぶる霧にかはります……
知らなかつたし望みもしなかつた
一日のことをわたしに教へながら
静かさのことを 熱い昼間のことを
雨のかすかなつぶやきは かうして
不意にいろいろとかはります
わたしはそれを聞きながら
いつかいつものやうに眠ります
糠雨 のなかにたつたひとりで
歩きまわつてゐたせいだ
わたしの掌は 額は 湿つたまま
いつかしらわたしは暗くなり
ここにかうして凭れてゐると
あかりのつくのが待たれます
そとはまだ音もないかすかな雨が
人のゐない川の上に 屋根に
人の傘の上に 降りつづけ
あれはいつまでもさまよひつづけ
やがてけぶる霧にかはります……
知らなかつたし望みもしなかつた
一日のことをわたしに教へながら
静かさのことを 熱い昼間のことを
雨のかすかなつぶやきは かうして
不意にいろいろとかはります
わたしはそれを聞きながら
いつかいつものやうに眠ります
立原道造 1914-1939 拾遺詩篇より
注)糠雨=霧のように細かい雨 霧雨 小ぬか雨
出典:立原道造詩集 1988 岩波書店
参照:大辞泉 1995 小学館
参照:大辞泉 1995 小学館
改訂:2019.06.30 タイトル誤植訂正
2020.06.12 誤植訂正 ひえて→冷えて
2024.02.24 アイコンLink修正 他
2020.06.12 誤植訂正 ひえて→冷えて
2024.02.24 アイコンLink修正 他
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