Click Icon or Scroll up

Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2018-09-27

立原道造「雨の言葉」


拾遺詩篇より



雨の言葉



わたしがすこし冷えてゐるのは
糠雨ぬかあめ のなかにたつたひとりで
歩きまわつてゐたせいだ
わたしの掌は 額は 湿つたまま
いつかしらわたしは暗くなり
ここにかうしてもたれてゐると
あかりのつくのが待たれます

そとはまだ音もないかすかな雨が
人のゐない川の上に 屋根に
人の傘の上に 降りつづけ
あれはいつまでもさまよひつづけ
やがてけぶる霧にかはります……

知らなかつたし望みもしなかつた
一日のことをわたしに教へながら
静かさのことを 熱い昼間のことを
雨のかすかなつぶやきは かうして
不意にいろいろとかはります
わたしはそれを聞きながら
いつかいつものやうに眠ります




立原道造 1914-1939 拾遺詩篇より



注)糠雨=霧のように細かい雨 霧雨 小ぬか雨

出典:立原道造詩集 1988 岩波書店
参照:大辞泉 1995 小学館


改訂:2019.06.30 タイトル誤植訂正
2020.06.12 誤植訂正 ひえて→冷えて
2024.02.24 アイコン•リンク修正 他



0 件のコメント:

コメントを投稿

      ********** 投稿要領 **********
1. [公開] ボタンは記入内容を管理者宛に送信し即公開はしません
 (サイト劣悪仕様により当該文字列変更不能)
2. 非公開希望の場合もその旨記述しこのボタンで送信して下さい
3. 送信された記述内容は管理者の承認を経て原則公開されます
4. 反公序良俗, 政治的偏向過剰, 宣伝, 広告, スパム等は不可
      **********************************