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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2018-09-07

中原中也「蒼あおざめし我の心に」


「未刊詩篇」より




  蒼ざめし我の心に



君知るや、廢墟の木魂……
低空に、砂埃りして
中空に、かなしくはとび、
大空に、消えもやするや

我は知る、人間の心勞を!
我は知る、喜びを、かなしびを
我は知る、額の汗を、
不時の災難を、我は知るなり!

嘗て、母に仕へたりしよ、
臺所の響きよ、野仕事に疲れし男よ
それらは今日、いかにかにかなりし……
森の木末の、風そよぐのみにして

あゝ、忘れよや、わが心、廢墟の木魂……
忘れよや、森の響きを、
忘れよや、物の響きを、
忘れよや! 空の思ひを……


中原中也 1934 未刊詩篇



出典:中原中也全詩集 P.570 1972 角川書店


注)廢墟=はいきょ 廃墟
注)木魂=こだま 1:樹木に宿る精霊 木の精 2:声や音が山や谷などに反響すること その声や音 山びこ (辞泉)
注)かなしくはとび=かなしく〈悲し・形連用〉+ は〈係助・承ける語を強調し次に係る〉+ とび〈飛ぶ・四段連用〉
注)消えもやするや=消え〈消ゆ・下二未然〉+ も〈助・承ける語を不確実なものとする〉+ や〈助・軽い感動を表す〉+ する〈す・サ変終止・動作状態などがある〉+ や〈係助・疑問を表す〉
注)かなしび=悲しび 哀しび→悲しみ
注)嘗て=かつて
注)臺所=台所
注)忘れよや=忘れ〈忘る:四段命令〉+ よ〈助・念押し 自分の考えを相手に押し付ける気持ちの表現〉+や〈係助・判っていることを更に問う〉
注)木末=こぬれ 《「こ(木)のうれ(末)」の音変化》樹木の先端の部分 こずえ (辞泉)


参照:岩波 古語辞典 1974 岩波書店(岩波)
   全文全訳 古語辞典 2004 小学館(全文)
   デジタル大辞泉 小学館 (辞泉)



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