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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

改訂情報:


- 二人乗り自転車の歌 重要: たくさん分かち合う→運命を共有する (韻に託けて文法無視で意訳した前訳を改訂)

- ホセ・カレーラス「光さす窓辺」 対訳付き原語歌詞追記

2017-05-16

C.P.ボードレール「破鐘」


詩集「惡の華」より、上田 敏 訳で



破鐘


悲しくもまたあはれなり、冬の地爐ゐろりもとに、
燃えあがり、燃えきにたる柴の火に耳傾けて、
夜霧だつ闇夜の空の寺の鐘、きゝつゝあれば、
過ぎし日のそこはかとなき物思ひ やをら浮びぬ。

 喉太 のどぶとの古鐘きけば、その身こそうらやましけれ。
老らくの齢にもめげず、すこやかに、まめなるこえの、
何時いつもいつも、梵音ぼんおん妙 たへに深くして、おほどかなるは、
 陣營 じんえい歩哨ほせうにたてる老兵の姿に似たり。

そも、われは 心破 こゝろやぶれぬ。 鬱憂 うついうのすさびごこちに、
寒空の夜に響けと、いとせめて、鳴りよそふとも、
 覺束 おぼつかな、にこそたてれ、 弱聲 よわごゑ細音ほそねも哀れ、

哀れなる臨終いまはこゑは、血の波の湖の岸、
小山こやまなすかばねもとに、 身動 みじろぎもえならでする、
てられし負傷ておひの兵の息絶ゆるつひ呻吟うめきか。


       ボドレエル —— 『悪の華』


Charles Pierre Baudelaire 1857 "La Closhie Felée", dans "Les Fleurs du Mal"
「惡の華」より:上田 敏 訳 1905「海潮音」本郷書院



注)夜霧だつ闇夜の… 物思ひ やおら浮かびぬ =「夜霧の闇夜にうたう鐘の音を聞いていると、遠い思い出がゆっくりと浮かんでくる」の意
注)喉太の古鐘 = よく響く音(聲) がする古い鐘
注)何時もいつも、梵音妙に… 穏どかなるは =「忠実にその信心深い音声をあげている」の意
注)そも、われは心破れぬ =「それにしても、私の魂はひび割れている」の意
注)すさびごこちに = 気まぐれに
注)いとせめて、鳴りよそふとも = 極力(歌)声を上げてみるが
注)覚束な、… 細音も哀れ = 心もとない弱った声が哀れ

出典:日本近代文学大系 52 明治大正譯詩集 角川書店
参照:岩波 古語辞典 補訂版 1990 岩波書店


改訂:2018.09.13 レイアウト更新 リーダー加筆
2023.08.16 末梢表現変更, スマホ表示修正、アイコンリンク修正



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