いちぢくの葉
いちぢくの、葉が夕空にくろぐろと、
風に吹かれて
隙間より、空あらはれる
美しい、前齒一本缺け落ちた
をみなのやうに、姿勢よく
ゆふべの空に、立ちつくす
――わたくしは、がつかりとして
わたしの過去のごちやごちやと
積みかさなつた思ひ出の
ほごすすべなく、いらだつて、
やがては、頭の重みの現在感に
身を托し、心も托し、
なにもかも、いはぬこととし、
このゆふべ、ふきすぐる風に頸さらし、
夕空に、くろぐろはためく
いちぢくの、木末 みあげて、
なにものか、知らぬものへの
愛情のかぎりをつくす。
風に吹かれて
隙間より、空あらはれる
美しい、前齒一本缺け落ちた
をみなのやうに、姿勢よく
ゆふべの空に、立ちつくす
――わたくしは、がつかりとして
わたしの過去のごちやごちやと
積みかさなつた思ひ出の
ほごすすべなく、いらだつて、
やがては、頭の重みの現在感に
身を托し、心も托し、
なにもかも、いはぬこととし、
このゆふべ、ふきすぐる風に頸さらし、
夕空に、くろぐろはためく
いちぢくの、木末 みあげて、
なにものか、知らぬものへの
愛情のかぎりをつくす。
中原中也 1907-1937「未刊詩篇」
出典:中原中也全詩集 P.482 1972 角川書店
注)をみな = 若い女性
注)をみな = 若い女性
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