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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2017-05-09

中原中也「いちぢくの葉」


中原中也「未刊詩篇」より




いちぢくの葉


いちぢくの、葉が夕空にくろぐろと、
風に吹かれて
隙間より、空あらはれる
美しい、前齒一本缺け落ちた
をみなのやうに、姿勢よく
ゆふべの空に、立ちつくす

――わたくしは、がつかりとして
わたしの過去のごちやごちやと
積みかさなつた思ひ出の
ほごすすべなく、いらだつて、
やがては、頭の重みの現在感に
身を托し、心も托し、

なにもかも、いはぬこととし、
このゆふべ、ふきすぐる風に頸さらし、
夕空に、くろぐろはためく
いちぢくの、木末 みあげて、
なにものか、知らぬものへの
愛情のかぎりをつくす。


中原中也 1907-1937「未刊詩篇」


出典:中原中也全詩集 P.482 1972 角川書店

注)をみな = 若い女性


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