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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2017-05-28

中原中也「我がジレンマ」


中原中也「未刊詩篇」より




我がジレンマ


僕の血はもう、孤獨をばかり望んでゐた。
それなのに僕は、屡々人と対坐してゐた。
僕の血は爲す所を知らなかつた。
気のよさが、獨りで勝手に話をしてゐた。

後では何時でも後悔された。
それなのに孤獨に浸ることは、亦怖いのであつた。
それなのに孤獨を棄てることは、亦出来ないのであつた。
かくて生きることは、それを考へみる限りに於て苦痛であつた。

野原は僕に、遊べと云つた!
遊ばうと僕は思つた。――しかしさう思ふことは僕にとつて、
旣に餘りに社會を離れることを意味してゐるのであつた。

かくて僕は野原にゐることもやめるのであつたが、
又、人の所にもゐなかつた……僕は書齋にゐた。
そしてくされる限りにくさつてゐた、そしてそれをどうすることも出来なかつた。

(一九三五・二)


中原中也 1907-1937 未刊詩篇


出典:中原中也全詩集 P.762 1972 角川書店

注)屡々 = しばしば
注)亦 = また


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