ロマンツェロ - 跋文 抄訳
僕は幸福の時期に崇拜した
さまざまの偶像に別れを告げるための
最後の外出をした。
僕は無理矢理にわが身を
ルーヴルの美術館まで曳きずつて行つた。
そして臺座の上に立つてゐる大理石の
なつかしい女神さま、ミロのヴィーナスの前へ來たときに
僕は殆んどくづ折れた。
僕は泣いた。激しく泣いた。
石像さへも、きつと僕を憐れんだほどに。
ミロの女神さまも気の毒さうに
僕を見下ろしてゐなさったが、
詮ないことに、かうおつしやるかのやうだつた。
「ね、わたしは腕を失くしたのだよ、
助けて上げたくてもできないのだよ。」
さまざまの偶像に別れを告げるための
最後の外出をした。
僕は無理矢理にわが身を
ルーヴルの美術館まで曳きずつて行つた。
そして臺座の上に立つてゐる大理石の
なつかしい女神さま、ミロのヴィーナスの前へ來たときに
僕は殆んどくづ折れた。
僕は泣いた。激しく泣いた。
石像さへも、きつと僕を憐れんだほどに。
ミロの女神さまも気の毒さうに
僕を見下ろしてゐなさったが、
詮ないことに、かうおつしやるかのやうだつた。
「ね、わたしは腕を失くしたのだよ、
助けて上げたくてもできないのだよ。」
これは誰の詩だらうか? アポリネール派の現代詩人だらうか? 違う。
これはハイネの詩集「ロマンツェロ」の跋文である散文の一節を、詩の
形にして幾らか自由に私が書き直してみたので在る。
譯 者
これはハイネの詩集「ロマンツェロ」の跋文である散文の一節を、詩の
形にして幾らか自由に私が書き直してみたので在る。
譯 者
Heinrich Heine 1851 "Romanzero"(跋文抄訳)
片山敏彦 訳 1938 ハイネ詩集 序文 新潮社
片山敏彦 訳 1938 ハイネ詩集 序文 新潮社
出典:片山敏彦 訳 1951 ハイネ詩集 新潮社
注)跋文 = ばつぶん 書物の後書き
注)詮ない = せんない 報いられない しかたがない
注)出典は段落なし, ここではより詩の形らしく3連とした
注)跋文 = ばつぶん 書物の後書き
注)詮ない = せんない 報いられない しかたがない
注)出典は段落なし, ここではより詩の形らしく3連とした
改訂:2019.10.14 レイアウト更新
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