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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2016-12-18

中原中也「老いたる者をして」(空しき秋)


「在りし日の歌」より




老いたる者をして


━━━「空しき秋」第十二


老いたる者をして静謐せいひつうちにあらしめよ
そは彼等こころゆくまで悔いんためなり

吾は悔いんことを欲す
こころゆくまで悔ゆるはまことたまを休むればなり

あゝ はてしもなくかんことこそ望ましけれ
父も母も兄弟はらからも友も、はた見知らざる人々をも忘れて

東明しののめの空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく、、、、小旗の如く涕かんかな

あるはまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海のの風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……


反 歌

あゝ 吾等怯懦われらきょうだのために長き間、いとも長き間
あだなることにかゝらひて、涕くことを忘れゐたりしよ、げに忘れゐたりし
 よ……


[ 空しき秋二十数編は散佚して今はなし。その第十二のみ、諸井三郎の作曲によりて残りしものなり。]

中原中也 1938 「在りし日の歌」



注)静謐:静かで落ち着いていること
注)涕:なみだ 涙を流して泣く
注)東明の空:夜明け前に茜色にそまる空
注)怯懦:臆病で気が弱いこと
注)12/19 改訂:前稿に、筆者の誤記に加え出典との差異が目立ったため、タイトル、字配り、改行、かなづかい、旧字体、傍点、などを極力出典に近い形に改め、原典・出典を明記。
  ルビについては、出典にはないものを3箇所加筆

出典:中原中也全詩集 P.182 1972 角川書店


改訂:2018.05.20 記事タイトル変更(空しき秋)を併記 レイアウト更新
:2018.11.23 アイコン不具合修正 行間微調整


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