死のよろこび
蝸牛匍ひまはる粘りて濕りし土の上に
底いと深き穴をうがたん。泰然として、
われ其處に老いさらぼひし骨を横へ、
水底に鱶の沈む如却如の淵に眠るべう。
われ遺書を厭み、墳墓をにくむ。
死して徒に人の涙を請はんより、
生きながらにして吾寧ろ鴉をまねぎ、
汚れたる脊髄の端々をついばましめん。
おお蛆蟲よ。眼なく耳なき暗黑の友、
君が爲めに腐敗の子、放蕩の哲學者、
よろこべる無頼の死人は來る。
わが亡骸にためらう事なく食入りて
死の中に死し、魂失せし古びし肉に、
蛆蟲よわれに問へ。猶も腦みのありやなしやと。
底いと深き穴をうがたん。泰然として、
われ其處に老いさらぼひし骨を横へ、
水底に鱶の沈む如却如の淵に眠るべう。
われ遺書を厭み、墳墓をにくむ。
死して徒に人の涙を請はんより、
生きながらにして吾寧ろ鴉をまねぎ、
汚れたる脊髄の端々をついばましめん。
おお蛆蟲よ。眼なく耳なき暗黑の友、
君が爲めに腐敗の子、放蕩の哲學者、
よろこべる無頼の死人は來る。
わが亡骸にためらう事なく食入りて
死の中に死し、魂失せし古びし肉に、
蛆蟲よわれに問へ。猶も腦みのありやなしやと。
シャアル・ボヲドレエル
Charles-Pierre Baudelaire 1857 "Le Mort joyeux" dans "Les Fleurs de Mal"
永井荷風 訳 1913「珊瑚集」籾山書店
Charles-Pierre Baudelaire 1857 "Le Mort joyeux" dans "Les Fleurs de Mal"
永井荷風 訳 1913「珊瑚集」籾山書店
出典:珊瑚集 ‐ 日本近代文学大系 52 明治大正譯詩集 1971 角川書店
参照:岩波 古語辞典 補訂版 1990 岩波書店
注)うがたん=穿つ(穴をあける 掘る)の未然形+助動詞 ム (意志)→中世の発音変化で ン (辞典)
注)べう=推量の助動詞ベシの連用形 ベクのウ音便(辞典)
注)厭み=忌み(避ける 嫌う) の意か(U.D.)
注)まねぎ=招きマネキの濁音型音便(U.D.)
注)出典は全漢字にルビあり
注)べう=推量の助動詞ベシの連用形 ベクのウ音便(辞典)
注)厭み=忌み(避ける 嫌う) の意か(U.D.)
注)まねぎ=招きマネキの濁音型音便(U.D.)
注)出典は全漢字にルビあり
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この詩は、一見、極めて強い信仰に基づいた生死観を表しているかのようで、平安時代初期の檀林皇后の強烈な生死観を思い出してしまいます。
しかし、その深さ徹底の程度においては、檀林皇后のそれとは比ぶべくもなく、ここでは、むしろ、肉体の死の醜悪はそれがどれほどであっても厭わないが、不滅なる霊魂が肉体の死後も更に悩み続けるか否か、それを案ずるほどに深い悩みが、今、あることを詠った。
しかし、その深さ徹底の程度においては、檀林皇后のそれとは比ぶべくもなく、ここでは、むしろ、肉体の死の醜悪はそれがどれほどであっても厭わないが、不滅なる霊魂が肉体の死後も更に悩み続けるか否か、それを案ずるほどに深い悩みが、今、あることを詠った。
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