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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

改訂情報:


- The Alexander Brothers : Nobody's Child リードに加筆, 一部記述変更

- ホセ・カレーラス「光さす窓辺」 対訳付き原語歌詞掲載

2017-12-29

シャルル・ボードレール「死のよろこび」


詩集「惡の華」より



死のよろこび


かたつむりひまはるねばりてしめりし土の上に
そこいと深き穴をうがたん。たいぜんとして、
われ其處そこに老いさらぼひし骨をよこたへ、
水底みなそこふかの沈ごと わすれの淵に眠るべう。

われ遺書ゐしょみ、墳墓ふんぼをにくむ。
死していたづらに人の涙をはんより、
生きながらにして吾寧むしからすをまねぎ、
汚れたる脊髄のはし々をついばましめん。

蛆蟲うじむしよ。眼なく耳なき暗黑あんこくの友、
君がめに腐敗の子、ほうたう哲學者てつがくしゃ
よろこべる無頼ぶらいの死人はきたる。

わが亡骸なきがらにためらう事なく食入くひいりて
死のうちに死し、たましひ失せしふるびし肉に、
蛆蟲よわれに問へ。なほなやみのありやなしやと。


シャアル・ボヲドレエル



Charles-Pierre Baudelaire 1857 "Le Mort joyeux" dans "Les Fleurs de Mal"(惡の華)
永井荷風 訳 1913「珊瑚集」籾山書店



出典:珊瑚集 ‐ 日本近代文学大系 52 明治大正譯詩集 1971 角川書店
参照:岩波 古語辞典 補訂版 1990 岩波書店


注)うがたん=穿つ(穴をあける 掘る)の未然形+助動詞 ム (意志)→中世の発音変化で ン (辞典)
注)べう=推量の助動詞ベシの連用形 ベクのウ音便(辞典)
注)厭み=忌み(避ける 嫌う) の意か(U.D.)
注)まねぎ=招きマネキの濁音型音便(U.D.)
注)出典は全漢字にルビあり


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この詩は、一見、極めて強い信仰に基づいた生死観を表しているかのようで、平安時代初期の檀林皇后の強烈な生死観を思い出してしまいます。
しかし、その深さ徹底の程度においては、檀林皇后のそれとは比ぶべくもなく、ここでは、むしろ、肉体の死の醜悪はそれがどれほどであっても厭わないが、不滅なる霊魂が肉体の死後も更に悩み続けるか否か、それを案ずるほどに深い悩みが、今、あることを詠った。



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