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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2017-12-31

中原中也「除夜の鐘」


中原中也「在りし日の歌」より




除夜の鐘


除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。
千萬年も、古びたよるの空気を顫わし、
除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。

それは寺院の森の霧つた空……
そのあたりで鳴つて、そしてそこから響いて来る。
それは寺院の森の霧つた空……

その時子供は父母の膝下で蕎麥を食うべ、
その時銀座はいつぱいの人出、淺草もいつぱいの人出、
その時子供は父母の膝下で蕎麥を食うべ。

その時銀座はいつぱいの人出、淺草もいつぱいの人出。
その時囚人は、どんな心持だらう、どんな心持だらう、
その時銀座はいっぱいの人出、淺草もいっぱいの人出。

除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。
千萬年も、古びたよるの空気を顫わし、
除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。


中原中也 1938 在りし日の歌


出典:中原中也全詩集 P.228 1972 角川書店

注)顫わし = ふるわし
注)霧つた = きらった
注)膝下 = ひざもと
注)蕎麥 = そば
注)食う = くらう
注)…べ = …だろう …でしょう 〔方言〕関東から北か(土のちり)



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