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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2016-11-29

中原中也 「更くる夜」


中原中也「未刊詩篇」より




更くる夜

内海誓一郎に

毎晩々々、夜がふけると、近所の湯屋の
水汲む音がきこえます。
流された残り湯が湯気となつて立ち、
昔ながらの真つ黒い武蔵野の夜です。
おつとり霧も立罩たちこめて
その上に月が明るみます、
と、犬の遠吠がします。

その頃です、僕が囲炉裏ゐろりの前で、
あえかな夢をみますのは。
随分……今では損はれてはゐるものの
今でもやさしい心があつて、
こんな晩ではそれがしづかつぶやきだすのを、
感謝にみちて聴きいるのです、
感謝にみちて聴きいるのです。

中原中也 1938 「在りし日の歌」より

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