更くる夜
内海誓一郎に
毎晩々々、夜が更ると、近所の湯屋の
その頃です、僕が囲炉裏の前で、
水汲む音がきこえます。
流された残り湯が湯気となつて立ち、昔ながらの真つ黒い武蔵野の夜です。
おつとり霧も立罩めてその上に月が明るみます、
と、犬の遠吠がします。その頃です、僕が囲炉裏の前で、
あえかな夢をみますのは。
随分……今では損はれてはゐるものの今でもやさしい心があつて、
こんな晩ではそれが徐に呟きだすのを、感謝にみちて聴きいるのです、
感謝にみちて聴きいるのです。中原中也 1938 「在りし日の歌」より
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