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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

改訂情報:


- 二人乗り自転車の歌 重要: たくさん分かち合う→運命を共有する (韻に託けて文法無視で意訳した前訳を改訂)

- ホセ・カレーラス「光さす窓辺」 対訳付き原語歌詞追記

2017-09-10

G・ドニゼッティ「人知れぬ涙」


オペラ『愛の妙薬』の中で、ネモリーノによって歌われるアリア「人知れぬ涙」。
リリック・テノールの数あるアリアの中で、最高傑作ともいわれ、広く親しまれていると思います。



テノールは、今年一月に亡くなった、ニコライ・ゲッダ氏。
スウェーデン生まれ。ドイツ語もフランス語もイタリア語も、その他多くの各国語をこなしたといわれる。
高音域は得意で、ハイ D、更には、ファルセットでハイ F の録音が現存するとのこと。
といわれても、私は、そのような声楽の技術的なことには疎いので、あまりピンときませんが。

四半世紀前、つくばにいた頃、2枚組のレーザー・ディスク(DVD の前身)で購入した "The Metropolitan Opera Centennial Gala" と題する、往年の名歌手たちが、引退後の歌手も含め、数多く登場する、貴重なディスクがあります。
それに収録されている、ゲッダ氏の歌うこの曲が好きで、繰り返し聴いて楽しんできました。
それが、Youtube にアップされているのを見つけたので、ここに埋め込みます。

ゲッダ氏の歌唱、実に誠実、ネモリーノの心情が伝わってきて、すばらしい。

∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴

貧農のネモリーノは、富豪の娘アディーナに思いを寄せている。
しかし、アディーナは貧しいネモリーノにはつれなくあたり、凛々しいベルコーレ軍曹の求婚に応じてしまう。
窮したネモリーノは、彼女の愛を得たいばかりに、軍隊に入って給料を前借し、秘薬の「愛の妙薬」を買う。
ネモリーノが、秘薬を飲んで寝入ってしまっている間に、彼が莫大な遺産の相続をすることになったという噂が広まり、娘たちは、玉の輿に乗ろうと、お祭り騒ぎになる。
婚礼の席で、軍曹との結婚の誓約を、なぜか躊躇しているアディーナは、ネモリーノが秘薬を買うために、自らの命を賭して入隊したことを聞かされる。
アディーナは、思わず涙を流し、自分が結婚の誓約を躊躇している理由が、本当は、ネモリーノを愛しているからなのだ、と気付く。


Una furtiva lagrima
人知れぬ 涙が

negli occhi suoi spuntò ...
彼女の目に 溢れている ...

Quelle festose giovani
あの お祭り騒ぎの 娘たちが

invidiar sembrò ...
羨ましく 見えるようだ ...

Che più cercando io vo?
これ以上 何をさがす?

Che più cercando io vo?
これ以上 何を求める?

M'ama!
僕を愛してるんだ!

Sì, m'ama, lo vedo.
そう、僕を愛している、そうなんだ。

Lo vedo.
そうなんだ。


Un solo istante i palpiti
ほんの ひと時でも 鼓動を

del suo bel cor sentir!
彼女の すてきな心臓を 感じたら!

I miei sospir, confondere
僕の吐息が、混ざってしまう

per poco a' suoi sospir!
ちょっとの間 彼女の吐息と!

I palpiti, i palpiti sentir,
鼓動を、鼓動を 感じる、

confondere i miei coi suoi sospir...
混ざってしまう 僕と 彼女の 吐息が ...

Cielo! Si può morir!
天国だ! 死んでもいい!

Di più non chiedo, non chiedo.
これ以上は 求めない、求めない。

Ah, cielo! Si può! Si, può morir!
あぁ、天国! それでいい! そう、死んでもいい!

Di più non chiedo, non chiedo.
これ以上は 求めない、求めない。

Si può morire! Si può morir d'amor.
死んでもいい! 死んでもいい 愛のために。


          Felice Romani : 対訳 土のちり


∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴

   Bravo !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

5'49"
"Una flutiva lagrima"
from Opera "L'Elisir d'Amore"
Comp: Gaetano Donizetti
Lyrics: Felice Romani
Ten: Nicolai Gedda
Cond: James Levine
Orch: Metropolitan Opera Orchestra
Recorded: Oct. 22, 1983


後記:

ネット上には、この歌の日本語の歌詞がたくさんありますが、どれにも共通した欠点というか、私には、気に入らないところがあります。

私が直訳で “彼女の心臓の鼓動を感じたら” としているところを、それらの多くが “彼女の心のときめきを感じたら” などとしています。

この歌、そんな、寝ぼけた歌かしら、と私は思います。
心臓の鼓動が伝わってくるほど、強くしっかりと抱きしめたい、そう歌っているのだ、と私は思うし、ゲッダ氏もそう歌っているように聞こえます。
それでこそ、“天国だ!死んでもいい!” なのでしょう。

言いたいこと勝手なことを書いていますが、実際に訳すのは大変でした。

2か所で躓いて、もう無理かと思い、しばらく停滞。
それから、オペラの荒筋をもう一度読み直し、そこで得たヒントで1か所をクリアー。

残る一つの難問は、この歌の核心、“M'ama”。

この短縮形は辞書に載っていません。
短縮する前を “Ma ama”(しかし/実際/さて 愛する)であるとすると、母音の a が続くので、これを省略している、のかと思いました。
しかし、どうしてもその確証が得られず、したがって核心の単語が訳せないので、この歌詞の翻訳はほぼ諦めました。

ところが、辞書や文法書ではなく、生きた言葉のなかに、その答えを発見。

答えは、マスカーニの歌曲 "M'ama . . . non m'ama" にありました。

 花弁を一枚づつむしりながら、
 M'ama, Non m'ama, M'ama, Non m'ama ...(愛している、愛していない、愛して……)

という時の決まり文句の “M'ama” でした。

これが見つかって、ようやく、上記、原詩の単語の並びと訳語のそれが、ほぼ一致する、非力が渾身の力を込めた対訳となりました。

Ref:  Pietro Mascagni "M'ama . . . non m'ama"



改訂:2017.09.10 後記に加筆訂正 他末梢字句訂正
   2017.09.11 "渾身" の語の誤用訂正 他末梢表現訂正
   2019.03.08 レイアウト更新 末梢表現変更



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