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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2017-09-20

中原中也「わが喫湮」


中原中也「山羊の歌」より





わが喫湮


おまへのその、白い二本のあしが、
  夕暮、港の町の寒い夕暮、
によきによきと、ペエヴの上を歩むのだ。
  店々に灯がついて、灯がついて、
私がそれをみながら歩いてゐると、
  おまへが聲をかけるのだ、
どつかにはいつて憩みませうよと。

そこで私は、橋や荷足にたりを見殘しながら、
  レストオランに這入るのだ――
わんわんいう喧騒どよもし、むつとするスチーム、
  さても此處は別世界。
そこで私は、時宜にも合わないおまへの陽気な顔を眺め、
  かなしく煙草を吹かすのだ、
一服、一服、吹かすのだ……


中原中也 1934 「山羊の歌」



注)荷足 = 荷足船 にたりぶね 東京湾/相模湾あたりで使われていた小型の和船
注)時宜 = じぎ その時/場所にふさわしいこと

出典:中原中也全詩集 P.64 1972 角川書店


改訂:2017.09.21 文字サイズ再調整 注釈配置変更
  :2023.10.14 レイアウト更新


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