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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2017-09-04

中原中也「蜻蛉に寄す」


中原中也「在りし日の歌」より




蜻蛉に寄す


あんまり晴れてる 秋の空
赤い蜻蛉が 飛んでゐる
あわい夕陽を 浴びながら
僕は野原に 立つてゐる

遠くに工場の 煙突が
夕陽にかすんで みえてゐる
大きな溜息 一つついて
僕は 石を拾ふ

その石くれの 冷たさが
漸く 手 中 しゅちゅうで ぬくもると
僕はほかして 今度は草を
夕陽を浴びてる 草を拔く

拔かれた草は 土の上で
ほのかほのかに 萎えてゆく
遠くに工場の 煙突は
夕陽に霞んで みえてゐる


中原中也 1938 「在りし日の歌」より



出典:中原中也全詩集 P.240 1972 角川書店

注)蜻蛉 = トンボ
注)蹲んで = しゃがんで
注)漸く = ようやく


改訂:2023.10.14 レイアウト更新


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