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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2016-11-14

中原中也「幻影」


中原中也「未刊詩篇」より





幻影


私の頭の中には、いつの頃からか、
薄命さうなピエロがひとり棲んでゐて、
それは、しやの服なんかを着込んで、
そして、月光を浴びてゐるのでした。

ともすると、弱々しげな手付をして、
しきりと 手真似をするのでしたが、
その意味が、つひぞ通じたためしはなく、
あわれげな 思ひをさせるばつかりでした。

手真似につれては、くちも動かしてゐるのでしたが、
古い影絵でも見てゐるやう――
音はちつともしないのですし
何を云つてるのかは 分りませんでした。

しろじろと身に月光を浴び、
あやしくもあかるい霧の中で、
かすかな姿態をゆるやかに動かしながら、
眼付ばかりはどこまでも、やさしさうなのでした。


中原中也 1938 「在りし日の歌」より


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