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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2017-04-18

中原中也「月夜の濱邊」


中原中也「未刊詩篇」より




月夜の濱邊


月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちてゐた。

それを拾つて、役立てようと
僕は思つたわけでもないが
なぜだかそれを捨てるに忍びず
僕はそれを、たもとに入れた。

月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちてゐた。

それを拾つて、役立てようと
僕は思つたわけでもないが
   月に向つてそれはほうれず
   浪に向つてそれは抛れず
僕はそれを、袂に入れた。

月夜の晩に、拾つたボタンは
指先にみ、心に沁みた。

月夜の晩に、拾つたボタンは
どうしてそれが、捨てられようか?


中原中也 1938 「在りし日の歌」


出典:中原中也全詩集 P.256 1972 角川書店

注)一部ルビ加筆


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