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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2017-04-01

中原中也「春」


中原中也「未刊詩篇」より







春は土と草とに新しい汗をかゝせる。
その汗を乾かさうと、雲雀は空にあがる。
瓦屋根今朝不平がない、
長い校舎から合唱は空にあがる。

あゝ、しづかだしづかだ。
めぐり来た、これが今年の私の春だ。
むかし私の胸つた希望は今日を、
嚴めしい紺青こあをとなつて空から私に降りかゝる。

そして私は呆気ほうけてしまふ、バカになつてしまふ
――藪かげの、小川か銀か小波さざなみか?
藪かげの小川か銀か小波か?

大きい猫が頸ふりむけてぶきつちよに
一つの鈴をころばしてゐる、
一つの鈴を、ころばして見てゐる。


中原中也 1938 「在りし日の歌」


出典:中原中也全詩集 P.164 1972 角川書店
注)一部ルビ加筆

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