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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2016-10-03

立原道造「 やがて秋……」

 

詩集「暁と夕の詩」より

 
 
II やがて秋……




やがて 秋が 来るだらう
夕ぐれが親しげに僕らにはなしかけ
樹木が老いた人たちの身ぶりのやうに
あらはなかげをくらく夜の方に投げ

すべてが不確かにゆらいでゐる
かへつてしづかなあさい吐息のやうに……
(昨日でないばかりに それは明日)と
僕らのおもひは ささやきかはすであらう

――秋が かうして かへつて来た
さうして 秋がまた たたずむ と
ゆるしを乞ふ人のやうに……

やがて忘れなかつたことのかたみに
しかし かたみなく 過ぎて行くであらう
秋は……さうして……ふたたびある夕ぐれに――




立原道造 1937 詩集「暁と夕の詩」 風信子ヒアシンス叢書 第二編 より



出典:立原道造詩集 1988 岩波書店


改訂:2018.07.21 レイアウト更新 出典記載
2018.07.27 出典変更 末梢表記変更
2018.11.01 重大誤記訂正 最終行に "さうして……" を追記 他旧仮名遣い未対応3箇所を訂正
2019.06.30 記事タイトル数字削除



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