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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2016-10-02

立原道造「或る風に寄せて」


詩集「暁と夕の詩」より



I 或る風に寄せて




おまへのことでいつぱいだつた 西風よ
たるんだ唄のうたひやまない 雨の昼に
とざしたまどのうすあかりに
さびしい思ひを噛みながら

おぼえてゐた おののきも ふるへも
あれは見知らないものたちだ……
夕ぐれごとに かがやいた方から吹いて来て
あれはもう たたまれて 心にかかつてゐる

おまへのうたつた とほい調べだ――
誰がそれを引き出すのだらう 誰が
それを忘れるのだらう……さうして

夕ぐれが夜に変るたび 雲は死に
そそがれて来るうすやみのなかに
おまへは 西風よ みんななくしてしまつた と




立原道造 1937 詩集「暁と夕の詩」 風信子ヒアシンス叢書 第二編 より



出典:立原道造詩集 1988 岩波書店


改訂:2018.07.27 出典変更 末梢表記変更
2019.06.30 記事タイトル数字削除



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