(ポロリ、ポロリと死んでゆく)
みんな別れてしまふのだ。
呼んだつて、歸らない。
今夜にして、僕はやつとこ覺るのだ、
白々しい自分であつたと。
そしてもう、むやみやたらにやりきれぬ、
それにしてもが過ぐる日は、なんと浮はついてゐたことだ。
あますなきみじめな気持である時も
随分いい気でゐたもんだ。
風が吹く、
あの世も風は吹いてるか?
熱にほてつたその頬に、風をうけ、
正直無比な目で以て
おまへは私に話したがつているのかも知れない………
ーーその夜、私は目を覺ます。
障子は破れ、風は吹き、
まるでこれでは戸外に寝てるも同様だ。
それでも俺はかまはない。
それでも俺はかまはない。
俺の全身よ、雨に濡れ、
富士の裾野に倒れたれ
ポロリ、ポロリと死んでゆく。富士の裾野に倒れたれ
讀人不詳
みんな別れてしまふのだ。
呼んだつて、歸らない。
なにしろ、此の世とあの世とだから叶はない。
今夜にして、僕はやつとこ覺るのだ、
白々しい自分であつたと。
そしてもう、むやみやたらにやりきれぬ、
(あの世からでも、僕から奪へるものでもあつたら奪つてくれ)
それにしてもが過ぐる日は、なんと浮はついてゐたことだ。
あますなきみじめな気持である時も
随分いい気でゐたもんだ。
(おまへの訃報に遇うまでを、浮かれてゐたとはどうもはや。)
風が吹く、
あの世も風は吹いてるか?
熱にほてつたその頬に、風をうけ、
正直無比な目で以て
おまへは私に話したがつているのかも知れない………
ーーその夜、私は目を覺ます。
障子は破れ、風は吹き、
まるでこれでは戸外に寝てるも同様だ。
それでも俺はかまはない。
それでも俺はかまはない。
どうなつたつてかまはない。
なんで文句を云ふものか………中原中也 1930年-1937年「早大ノート」より
出典:中原中也全詩集 1972 角川書店
改訂:2024.05.15 文末記号誤記訂正; 8行目置換【 。→ ) 】12行目補完【 。→ 。) 】, 旧仮名遣い/旧字体に改変 (意味変化なし), レイアウト微調整
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