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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2016-10-29

中原中也 (ポロリ、ポロリと死んでゆく)


中原中也「未刊詩篇」より





(ポロリ、ポロリと死んでゆく)

俺の全身ごたいよ、雨に濡れ、
富士の裾野に倒れたれ
讀人不詳

ポロリ、ポロリと死んでゆく。
みんな別れてしまふのだ。
呼んだつて、歸らない。
なにしろ、此の世とあの世とだから叶はない。

今夜いまにして、僕はやつとこ覺るのだ、
白々しい自分であつたと。
そしてもう、むやみやたらにやりきれぬ、
(あの世からでも、僕から奪へるものでもあつたら奪つてくれ)

それにしてもが過ぐる日は、なんと浮はついてゐたことだ。
あますなきみじめな気持である時も
随分いい気でゐたもんだ。
(おまへの訃報に遇うまでを、浮かれてゐたとはどうもはや。)

風が吹く、
あの世も風は吹いてるか?
熱にほてつたその頬に、風をうけ、
正直無比な目でもっ
おまへは私に話したがつているのかも知れない………

ーーその夜、私は目を覺ます。
障子は破れ、風は吹き、
まるでこれでは戸外そとに寝てるも同様だ。

それでも俺はかまはない。
それでも俺はかまはない。
どうなつたつてかまはない。
なんで文句を云ふものか………



中原中也 1930年-1937年「早大ノート」より




出典:中原中也全詩集 1972 角川書店

改訂:2024.05.15 文末記号誤記訂正; 8行目置換【 。→ ) 】12行目補完【 。→ 。) 】, 旧仮名遣い/旧字体に改変 (意味変化なし), レイアウト微調整



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