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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2016-10-08

中原中也 「秋の日」


「在りし日の歌」より

改訂:2019.10.08 旧字旧かなづかひ     


 
 
 
秋の日



磧づたひの 竝樹の 蔭に
秋は 美し 女の まぶた
泣きも いでなん 空の うる
昔の 馬の ひづめの 音よ

長の 年月 疲れの ために
國道 いゆけば 秋は 身に沁む
なんでも ないてば なんでも ないに
木履の 音さえ 身に 沁みる

陽は今 磧の 半分に 射し
流れを 無形むぎやうの 筏は とほる
野原は 向ふで 伏せつて ゐるが

連れだつ 友の お道化た 調子も
不思議に 空氣に 溶け 込んで
秋は 案じる くちびる 結んで
 


中原中也 1938 「在りし日の歌」より
 



 
出典:中原中也全詩集 P.176 1972 角川書店
 

 
注)磧=かわら, 川原
注)竝樹=なみき, 並木
注)無形=むぎょう, 形として現れないこと. また, そのものや, そのさま (大辞泉)
注)筏=いかだ, 木材・竹などを並べて結び合わせ, 水に浮かべる物. 木材の運搬や舟の代わりに用いる (大辞泉)
注)木履=ぽくり, ぽっくり


改訂:2019.10.08 旧字体及び旧仮名遣へ変更, レイアウト更新, 出典追記



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