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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2019-06-30

立原道造「眠りのほとりに」


詩集「暁と夕の詩」より



VII I眠りのほとりに




沈黙は 青い雲のやうに
やさしく 私を襲ひ……
私は 射とめられた小さい野獣のやうに
眠りのなかに 身をたふす やがて身動きもなしに

ふたたび ささやく 失はれたしらべが
春の浮雲と 小鳥と 花と 影とを 呼びかへす
しかし それらはすでに私のものではない
あの日 手をたれて歩いたひとりぼつちの私の姿さへ

私は 夜に あかりをともし きらきらした眠るまへの
そのあかりのそばで それらを溶かすのみであらう
夢のうちに 夢よりもたよりなく――

影に住み そして時間が私になくなるとき
追憶はふたたび 嘆息のやうに 沈黙よりもかすかな
言葉たちをうたはせるであらう




立原道造 1937 詩集「暁と夕の詩」 風信子ヒアシンス 叢書 第二編 より


注)たふす=たおす 倒す〔動サ五(四)〕1. 力を加えて、立っている状態のものを横にする。横にねかす。また、ころばす。(大辞泉)


出典:立原道造詩集 1988 岩波書店



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