魚の話
或る魚はよいことをしたのでその天使がひとつの願いをかなへさせて貰ふやうに神様と約束してゐたのである。
かはいさうに! その天使はずゐぶんのんきだつた。魚が死ぬまでそのことを忘れてゐたのである。魚は最後の望みに光を食べたいと思つた、ずつと海の底にばかり生まれてから住んでゐたし光という言葉だけ沈んだ帆前船や錨⚓️からきいてそれをひどく欲しがつてゐたから。が、それは果たされなかつたのである。
天使は見た、魚が倒れて水の面の方へゆるゆると、のぼりはじめるのを。彼はあわてた。早速神様に自分の過ちをお詫びした。すると神様はその魚を星に変へて下さつたのである。魚は海のなかに一すぢの光をひいた、そのおかげでしなやかな海藻やいつも眠つてゐる岩が見えた。他の大勢の魚たちはその光について後を追はうとしたのである。
やがてその魚の星は空に入り空の遥かへ沈んで行つた。
立原道造 1914−1939 散歩詩集より
注)⚓️=出典にも似たような錨の印(絵文字?)あり
出典:立原道造詩集 1988 岩波書店
改訂:2019.01.13 いる→ゐる
2024.05.10 脱字訂正: 空に入り遥かへ→空に入り空の遥かへ, 詩集名訂正: 未刊詩集→散歩詩集
2024.05.10 脱字訂正: 空に入り遥かへ→空に入り空の遥かへ, 詩集名訂正: 未刊詩集→散歩詩集
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