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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2019-01-13

立原道造「魚の話」


未刊詩集より




魚の話



る魚はよいことをしたのでその天使がひとつの願いをかなへさせて貰ふやうに神様と約束してゐたのである。
かはいさうに! その天使はずゐぶんのんきだつた。
魚が死ぬまでそのことを忘れてゐたのである。魚は最後の望みに光を食べたいと思つた、ずつと海の底にばかり生まれてから住んでゐたし光という言葉だけ沈んだ帆前船や錨⚓️からきいてそれをひどく欲しがつてゐたから。が、それは果たされなかつたのである。
天使は見た、魚が倒れて水の面の方へゆるゆると、のぼりはじめるのを。彼はあわてた。早速神様に自分の過ちをお詫びした。すると神様はその魚を星に変へて下さつたのである。魚は海のなかに一すぢの光をひいた、そのおかげでしなやかな海藻やいつも眠つてゐる岩が見えた。他の大勢の魚たちはその光について後を追はうとしたのである。
やがてその魚の星は空に入り遥かへ沈んで行つた。



立原道造 1914−1939 未刊詩集より



注)⚓️=出典にも似たような錨の印(絵文字?)あり

出典:立原道造詩集 1988 岩波書店
改訂:2019.01.13 眠つている→眠ってゐる



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