「未刊詩篇」より
自然よりよいものは、さらにもないと、
悟りすましてひえびえと
悟りすましてひえびえと
カフェーにて
酔客の、さわがしさのなか、
ギタアルのレコード鳴つて、
今晩も、わたしはここで、
ちびちびと、飲み更かします
人々は、挨拶交はし、
杯の、やりとりをして、
秋寄する、この宵をしも、
これはまあ、きらびやかなことです
わたくしは、しょんぼりとして、
自然よりよいものは、さらにもないと、
悟りすましてひえびえと
ギタアルきいて、身も世もあらぬ思ひして
酒啜ります、その酒に、秋風泌みて
それはもう結構なさびしさでございました
中原中也 1907-1937 未刊詩篇
出典:中原中也全詩集 P.484 1972 角川書店
注)ギタアル=ギターの旧仮名遣い
注)飲み更します=飲み (夜を) ふかします
注)挨拶=あいさつ
注)啜ります=すすります
注)沁みて=しみて
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