「未刊詩篇」より
梅雨と弟
每日々々雨が降ります
去年の今頃梅の實を持つて遊んだ弟は
去年の秋に亡くなつて
今年の梅雨にはいませんのです
母さまが おつしやいました
また今年も梅酒をこさはうね
そしたらまた來年の夏も飲物があるからね
あたしはお答へしませんでした
弟のことを思ひ出してゐましたので
去年梅酒をこしらふ時には
あたしがお手傳ひをしてゐますと
弟が來て梅を放つたり随分と邪魔をしました
あたしはにらんでやりましたが
あんなことをしなければよかつたと
今ではそれを悔んでをります……
中原中也 1907-1937 未刊詩篇
出典:中原中也全詩集 P.830 1972 角川書店
改訂:2019.07.15 アイコン埋込リンク誤記訂正
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