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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2019-07-11

中原中也「梅雨と弟」


「未刊詩篇」より





  梅雨と弟



每日々々雨が降ります
去年の今頃梅の實を持つて遊んだ弟は

去年の秋に亡くなつて
今年の梅雨つゆにはいませんのです

母さまが おつしやいました
また今年も梅酒うめしゆをこさはうね
そしたらまた來年の夏も飲物があるからね
あたしはお答へしませんでした
弟のことを思ひ出してゐましたので

去年梅酒をこしらふ時には
あたしがお手傳ひをしてゐますと
弟が來て梅をつたり随分と邪魔をしました
あたしはにらんでやりましたが
あんなことをしなければよかつたと
今ではそれを悔んでをります……


中原中也 1907-1937 未刊詩篇



出典:中原中也全詩集 P.830 1972 角川書店

改訂:2019.07.15 アイコン埋込リンク誤記訂正


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