月昇る前の会話
(上田敏原訳:月の出前の對話)
ーーそりゃあ眞の生活もしてはみたいさ、だがね、理想といふものは、あまり漠としてゐる。
ーーそこが理想なんだ、理想の理想たるところだ。
譯が解るくらるなら、別の名がつく。
ーーしかし、何事も 不確 な世の中だ。哲學また哲學、生れたり、 刺 違 たり、まるで筋が立つてゐない。
ーーさうさ、眞とは生きるのだといふんだもの、
絶對なんざあ、たつ瀬があるまい。
ーーひとつ旗を下して了はうか、えい、
お荷物はすつかり虚無へ渡して了はう。
ーー空から吹きおろす無邉の風の聲がいふ、
「おい、おい、ばかもいゝ加減にしなさい。」
ーーもつとも、さうさな「可能」の 工 場 の汽笛は、
「不可思議」のかたへ向つて唸つてはゐる。
ーー 共間唯一歩 だ。なるほど 黎明 と
曙のあはひのちがひほどである。
ーーそれでは、かうかな、現實とは、少なくとも
「或物」に對して益があるといふことか。
ーーそこでかうなる、ねえ、さうぢゃないか、
薔薇の花は必要であるーー其必要に對してと。
ーー話が少し妙になつて来たね、すべては循環論法に入つてくる。
ーー循環はしてゐるが、これが凡てだ。
ーー何だ、さうか、
なら、いつそ月の方へいつちまはう。
ーーそこが理想なんだ、理想の理想たるところだ。
譯が解るくらるなら、別の名がつく。
ーーしかし、何事も 不確 な世の中だ。哲學また哲學、生れたり、 刺 違 たり、まるで筋が立つてゐない。
ーーさうさ、眞とは生きるのだといふんだもの、
絶對なんざあ、たつ瀬があるまい。
ーーひとつ旗を下して了はうか、えい、
お荷物はすつかり虚無へ渡して了はう。
ーー空から吹きおろす無邉の風の聲がいふ、
「おい、おい、ばかもいゝ加減にしなさい。」
ーーもつとも、さうさな「可能」の 工 場 の汽笛は、
「不可思議」のかたへ向つて唸つてはゐる。
ーー 共間唯一歩 だ。なるほど 黎明 と
曙のあはひのちがひほどである。
ーーそれでは、かうかな、現實とは、少なくとも
「或物」に對して益があるといふことか。
ーーそこでかうなる、ねえ、さうぢゃないか、
薔薇の花は必要であるーー其必要に對してと。
ーー話が少し妙になつて来たね、すべては循環論法に入つてくる。
ーー循環はしてゐるが、これが凡てだ。
ーー何だ、さうか、
なら、いつそ月の方へいつちまはう。
Jules Laforgue 1885 "Dialogue avant le Lever de la Lune" de "Les Complaintes"
ジュル・ラフォルグ「月の出前の對話」苦情 より:上田敏 訳
注)あはひ=(物と物との)あいだ。すきま(全文)
出典:上田敏全訳詩集 1962 岩波書店
参照:小学館 全文全訳 古語辞典 2004 小学館(全文)
参照:小学館 全文全訳 古語辞典 2004 小学館(全文)
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