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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2018-05-11

ハインリッヒ・ハイネ「山の聲」


詩集「歌の本」より




山 の 聲

山のはざまを騎士が行く、
陰気に静かな馬の足音。
「俺は今、戀しい人の腕へ行くのか?
それとも暗い墓へ行くのか?」
山の聲がそれにこたへる───
「暗い墓へさ。」

騎士はそのまま進んでいくが
重い吐息ついて言ふ。───
「早や俺は暗い墓へ行くといふのか───
それも宜からう。墓の中には憩ひがある!」
山の聲がそれに答へる───
「墓の中には憩ひがあるさ。」

憩ひに充ちた騎士の頬には
一しずくの涙が落ちた。
「俺のために憩ひがあるのは墓穴だけか!
それなら墓も悪くはなからう。」
山の聲がうつろに答へる───
「さうさ、墓もわるくはないさ。」


Heinrich Heine 1827 Die Bergstimme aus Buch der Lieder
ハインリッヒ・ハイネ「山の聲」:片山敏彦 訳



出典:新譯 ハイネ詩集 片山敏彦 訳 1938 新潮社

注)聲=声
注)宜からう=良かろう

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