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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2018-05-28

中原中也「風雨」


未刊詩篇より




  風 雨


雨の音のはげしきことよ
風吹けばひとしほまさり
風やめば つと和みつつ

雨風のあわただしさよ
――悲しみに呆けし我に、
雨風のあわただしよ!

悲しみに呆けし我の
思ひ出はかそけきことよ
それににて巷も家も
雨風にかすみてみゆる

そがかすむ風情の中に、
ちらと浮むわがありし日よ
風の音にうちまぎれつつ
ふとあざむわがありし日よ


中原中也 1907-1937 未刊詩篇



出典:中原中也全詩集 P.510 1972 角川書店

注)ひとしほ=ひとしお ひときわ
注)つと=動作の早いさま さっそく
注)和ごみ=なごみ
注)呆けし=ほうけし ぼける ぼんやりする
注)かそけき=消えかかるさま かすかである
注)巷=ちまた
注)風情=ふぜい
注)浮む=うかむ 浮ク〘四段〙未然形+ム〘助動詞〙予想 推量
注)うち…=はっきり すっかり 明白に 意図的に…
注)あざむ=浅む〘四段〙連用形 情けないと見下げる 軽蔑する


改訂:2018.05.28 誤記訂正 雨風 → 風雨
2018.05.30 注)訂正 浮かむ→浮む 他加筆


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