(嘗てはラムプを、とぼしてゐたものなんです)
嘗てはランプを、とぼしてゐたものなんです。
今もう電燈の、ない所は殆どない。
電燈もないやうな、しずかな村に、
旅をしたいと、僕は思ふけれど、
却々それも、六ヶ敷いことなんです。
吁、科學……
こいつが俺には、どうも気に食はぬ。
ひどく愚鈍な奴等までもが、
科學ときけばにつこりするが、
奴等にや精神の、何事も分らぬから、
科學とさえ聞きや、につこりするのだ。
汽車が速いのはよろしい、許す!
汽船が速いのはよろしい、許す!
飛行機が速いのはよろしい、許す!
電信、電話、許す!
其の他はもう、我慢がならぬ。
知識はすべて、惡魔であるぞ。
やんがて貴様等にも、そのことが分る。
エエイッ、うるさいではないか電車自働車と、
ガタガタゞゞゞゞ、朝から晩まで。
いつそ音のせぬのを發明せい、
音はどうも、やりきれぬぞ。
エエイッ、音のないのを発明せい、
音のするのは、みな叩き潰せい!
中原中也 1907-1937 未刊詩篇
出典:中原中也全詩集 P.899 1972 角川書店
注)却々=なかなか
注)六ヶ敷い=むつかしい
注)吁=ああ
注)却々=なかなか
注)六ヶ敷い=むつかしい
注)吁=ああ
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