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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2018-07-25

中原中也「嘗てはラムプを、とぼして…」


未刊詩篇より




  (嘗てはラムプを、とぼしてゐたものなんです)


かつてはランプを、とぼしてゐたものなんです。
今もう電燈でんきの、ない所は殆どない。
電燈もないやうな、しずかな村に、
旅をしたいと、僕は思ふけれど、
却々それも、六ヶ敷いことなんです。

吁、科學……
こいつが俺には、どうも気に食はぬ。
ひどく愚鈍な奴等までもが、
科學ときけばにつこりするが、
奴等にや精神こころの、何事も分らぬから、
科學とさえ聞きや、につこりするのだ。

汽車が速いのはよろしい、許す!
汽船が速いのはよろしい、許す!
飛行機が速いのはよろしい、許す!
電信、電話、許す!
其の他はもう、我慢がならぬ。
知識はすべて、惡魔であるぞ。
やんがて貴様等にも、そのことが分る。

エエイッ、うるさいではないか電車自働車と、
ガタガタゞゞゞゞ、朝から晩まで。
いつそ音のせぬのを發明せい、
音はどうも、やりきれぬぞ。

エエイッ、音のないのを発明せい、
音のするのは、みな叩き潰せい!


中原中也 1907-1937 未刊詩篇



出典:中原中也全詩集 P.899 1972 角川書店

注)却々=なかなか
注)六ヶ敷い=むつかしい
注)吁=ああ




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