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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2018-07-15

中原中也「溪流たにがは」


「未刊詩篇」より




  溪流



溪流たにがはで冷やされたビールは、
靑春のやうに悲しかつた。
峰を仰いで僕は、
泣き入るやうに飲んだ。

ビショビショに濡れて、とれそうになつているレッテルも、
青春のやうに悲しかつた。
しかしみんなは、「實にいい」とばかり云つた。
僕も實は、さう云つたのだが。

濕つた苔も泡立つ水も、
日蔭も岩も悲しかつた。
やがてみんなは飲む手をやめた。
ビールはまだ、溪流たにがはの中で冷やされてゐた。

水を透かして瓶の肌えをみてゐると、
僕はもう、此の上歩きたいなぞとは思わなかつた。
獨り失敬して、宿に行つて、
女中ねえさんと話をした。

(一九三七・七・一五)


中原中也 1907-1937 未刊詩篇



出典:中原中也全詩集 P.895 1972 角川書店

注)肌え=はだえ 肌 皮膚 表面の質感


改訂:2018.07.15 アイコン・リンクURL誤記訂正


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