未刊詩篇より
夏と私
眞ッ白い嘆かひのうちに、
海を見たり。鷗を見たり。
高きより、風のただ中に、
思ひ出の破片の翻轉するをみたり。
夏としなれば、高山に、
眞ツ白い嘆きを見たり。
燃ゆる山路を、登りゆきて
頂上の風に吹かれたり。
風に吹かれつ、わが來し方に
茫然としぬ、…………涙しぬ。
はてしなき、そが心
母にも、………もとより友にも明さざりき。
しかすがにのぞみのみにて、
拱きて、そがのぞみに纒倒さるる。
わが身を見たり、夏としなれば、
そのやうなわが身を見たり。
(一九三〇・六・一四)
中原中也 1930 未刊詩篇
出典:中原中也全詩集 P.476 1972 角川書店
注)嘆かひ = なげかい 嘆き続けること
注)鴎 = かもめ
注)翻轉 = ほんてん ひっくりかえること
注)來し方 = こしかた 来た方
注)しかすがに = そうではあるが しかしながら
注)拱きて = こまぬきて 腕を組んで 何もせずに こまねいて
注)厭倒 = あっとう 圧倒
改訂:2017.08.12 Safari による保存時の特定旧字体無視を Chrome により訂正 - 海→海
:2018.07.01 表示乱れ修正 レイアウト更新
注)嘆かひ = なげかい 嘆き続けること
注)鴎 = かもめ
注)翻轉 = ほんてん ひっくりかえること
注)來し方 = こしかた 来た方
注)しかすがに = そうではあるが しかしながら
注)拱きて = こまぬきて 腕を組んで 何もせずに こまねいて
注)厭倒 = あっとう 圧倒
改訂:2017.08.12 Safari による保存時の特定旧字体無視を Chrome により訂正 - 海→海
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