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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2017-07-30

中原中也「我が祈り」

中原中也「未刊詩篇」より



我が祈り


小林秀雄に


神よ、私は俗人の奸策ともない奸策が
いかに細き糸目もて編みなされるかを知つてをります。
神よ、しかしそれがよく編みなされていればいる程、
破れる時には却て速かに亂離することを知つてをります。

神よ、私は人の世の事象が
いかに微細に織られるかを心理的にも知つてをります。
しかし私はそれらのことを、
一も知らないかの如く生きてをります。

私は此所に立つてをります!………
私はもはや歌はうとも叫ばうとも、
描かうとも説明しようとも致しません!

しかし、噫! やがてお恵みが下ります時には、
やさしくうつくしい夜の歌と
櫂歌とをうたはふと思つてをります………


       (一九二九・一二・一二)


中原中也 1929 未刊詩篇



出典:中原中也全詩集 P.474 1972 角川書店

注)奸策 = かんさく 人を陥れるためのはかりごと わるだくみ 奸計
注)却て = かえって
注)亂離 = 乱離 らんり 乱れ散らばる
注)如く = ごとく
注)此所 = ここ
注)噫! = ああ!
注)櫂歌 = かいうた とうか 船頭が舟をこぎながらうたう歌 舟歌

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       祈→祈 神→神

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