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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2016-09-13

中原中也 「一つのメルヘン」


「在りし日の歌」より




  一つのメルヘン



秋の夜は、はるかの彼方に、
小石ばかりの、河原があつて、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射してゐるのでありました。

陽といつても、まるで硅石か何かのやうで、
非常な個體の粉末のやうで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもゐるのでした。

さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それでいてくつきりとした
影を落としてゐるのでした。

やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもいなかつた川床に、水は
さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました……


中原中也 1938 「在りし日の歌」より



出典:中原中也全詩集 P.247 1972 角川書店


改訂: 2017.09.19 旧仮名遣いに変更 ルビ削除 出展明記
  : 2018.09.01 レイアウト更新



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