一つのメルヘン
秋の夜は、はるかの彼方に、
小石ばかりの、河原があつて、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射してゐるのでありました。
陽といつても、まるで硅石か何かのやうで、
非常な個體の粉末のやうで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもゐるのでした。
さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それでいてくつきりとした
影を落としてゐるのでした。
やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもいなかつた川床に、水は
さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました……
中原中也 1938 「在りし日の歌」より
出典:中原中也全詩集 P.247 1972 角川書店
改訂: 2017.09.19 旧仮名遣いに変更 ルビ削除 出展明記
: 2018.09.01 レイアウト更新
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