Click Icon or Scroll up

Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2016-09-04

中原中也 「秋 Ⅰ」


「山羊の歌」より





  秋 I

昨日まで燃えてゐた野が
今日茫然として、曇つた空のもとにつづく。
一雨毎に秋になるのだ、と人は云ふ
秋蝉は、もはやかしこに鳴いてゐる、
草の中の、ひともとの木の中に。

僕は煙草を喫ふ。その煙が
よどんだ空気の中をくねりながら昇る。
地平線はみつめようにもみつめられない
陽炎かげろふの亡霊達がつたり坐つたりしてゐるので、
――僕はしやがんでしまふ。

鈍い金色を帯びて、空は曇つてゐる、――相変らずだ、――
とても高いので、僕はうつむいてしまふ。
僕は倦怠を観念して生きてゐるのだよ、
煙草の味が三通りくらゐにする。
死ももう、とほくはないのかもしれない……

                  中原中也 1934「山羊の歌」より


注)ひともとの=一本の


改訂:2019.09.30 レイアウト更新



0 件のコメント:

コメントを投稿

      ********** 投稿要領 **********
1. [公開] ボタンは記入内容を管理者宛に送信し即公開はしません
 (サイト劣悪仕様により当該文字列変更不能)
2. 非公開希望の場合もその旨記述しこのボタンで送信して下さい
3. 送信された記述内容は管理者の承認を経て原則公開されます
4. 反公序良俗, 政治的偏向過剰, 宣伝, 広告, スパム等は不可
      **********************************