臨終
秋空は鈍色にして
黒馬の瞳のひかり
水涸れて落つる百合花
あゝ こころうつろなるかな
あゝ こころうつろなるかな
神もなくしるべもなくて
窓近く婦の逝きぬ
白き空盲ひてありて
白き風冷たくありぬ
白き風冷たくありぬ
窓際に髪を洗へば
その腕の優しくありぬ
朝の日は澪れてありぬ
水の音したたりてゐぬ
水の音したたりてゐぬ
町々はさやぎてありぬ
子等の聲もつれてありぬ
しかはあれ この魂はいかにとなるか?
うすらぎて 空となるか?
うすらぎて 空となるか?
中原中也 1934「山羊の歌」
出典:中原中也全詩集 P.20 1972 角川書店
注)にびいろ=橡の実(ドングリ)の殻で染める濃いねずみ色
注)しるべ=知り合い 知人(≒ 身寄り)
注)をみな=若い女性 :おみな(嫗)=老女 の対語
注)盲ひて=めしいて
注)澪れて=こぼれて
注)にびいろ=橡の実(ドングリ)の殻で染める濃いねずみ色
注)しるべ=知り合い 知人(≒ 身寄り)
注)をみな=若い女性 :おみな(嫗)=老女 の対語
注)盲ひて=めしいて
注)澪れて=こぼれて
改訂:2018.07.08 誤記訂正 澪こぼれて→澪れて
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