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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2016-09-08

中原中也「臨終」


山羊の歌より




  臨終


秋空は鈍色にびいろにして
黒馬の瞳のひかり
水涸れて落つる百合花
あゝ こころうつろなるかな

神もなくしるべもなくて
窓近くをみなの逝きぬ
白き空盲ひてありて
白き風冷たくありぬ

窓際に髪を洗へば
その腕の優しくありぬ
朝の日は澪れてありぬ
水の音したたりてゐぬ

町々はさやぎてありぬ
子等の聲もつれてありぬ
しかはあれ この魂はいかにとなるか?
うすらぎて 空となるか?


中原中也 1934「山羊の歌」



出典:中原中也全詩集 P.20 1972 角川書店

注)にびいろ=つるばみの実(ドングリ)の殻で染める濃いねずみ色
注)しるべ=知り合い 知人(≒ 身寄り)
注)をみな=若い女性 :おみな(嫗)=老女 の対語
注)盲ひて=めしいて
注)澪れて=こぼれて


改訂:2018.07.08 誤記訂正 澪こぼれて→澪れて



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