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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2017-11-22

中原中也「盲目の秋 I 」


中原中也「山羊の歌」より



盲目の秋



   I


風が立ち、浪が騒ぎ、
  無限の前に腕を振る。

そのかん、小さなくれなゐの花が見えはするが、
  それもやがては潰れてしまふ。

もう永遠に歸らないことを思つて
  酷薄な嘆息するのも幾たびであらう……

私の靑春はもはや堅い血管となり、
  その中を曼珠沙華ひがんばなと夕陽とがゆきすぎる。

それはしづかで、きらびやかで、なみなみと湛え、
  去りゆく女が最後にくれるゑまひのやうに、

おごそかで、ゆたかで、それでゐて佗しく
  異様で、溫かで、きらめいて胸に殘る……

      ああ、胸に殘る……

風が立ち、浪が騒ぎ、
  無限のまへに腕を振る。


中原中也 1934 「山羊の歌」



出典:中原中也全詩集 P.58 1972 角川書店

注)酷薄 = むごく思いやりのないこと・さま(大辞林)
注)湛え = たたえ(水・液体を)
注)笑ひ = ゑまひ えまい ほほえみ(岩波古語辞典)
注)佗しく = わびしく


関連記事: 「盲目の秋 II」 「盲目の秋 III」


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