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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2017-11-08

中原中也「湖上」


中原中也「在りし日の歌」より



湖上


ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう。
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。

沖に出たらば暗いでせう、
櫂から滴垂したたる水の音は
昵懇ちかしいものに聞こえませう、
――あなたの言葉の杜切れ間を。

月は聽き耳立てるでせう、
すこしは降りても來るでせう、
われら接唇くちづけする時に
月は頭上にあるでせう。

あなたはなほも、語るでせう、
よしないことや拗言すねごとや、
洩らさず私は聽くでせう、
――けれど漕ぐ手はやめないで。

ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう、
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。


中原中也 1938 在りし日の歌


出典:中原中也全詩集 P.184 1972 角川書店

注)杜切れ = とぎれ
注)よしない = 由無い: すべがない 根拠がない
注)拗言 = すねた よじれた すなおでない -言葉


改訂:2018.07.23 レイアウト更新



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