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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2016-08-10

中原中也 「羊の歌 IIII」


中原中也「山羊の歌」より




羊の歌

安原喜弘に


IIII


さるにても、もろにわびしいわが心
夜な夜なは、下宿のへやに独りゐて
思ひなき、思ひを思ふ 単調の
つまし心の連弾よ……

汽車の笛聞こえもくれば
旅おもひ、幼き日をばおもふなり
いなよいなよ、幼き日をも旅をも思はず
旅とみえ、幼き日とみゆものをのみ……

思ひなき、おもひを思ふわが胸は
閉ざされて、醺生かびはゆる手匣てばこにこそはさも似たれ
しらけたるくち、乾きし頬
酷薄の、これな寂莫しじまにほとぶなり……

これやこの、慣れしばかりに耐へもする
さびしさこそはせつなけれ、みづからは
それともしらず、ことやうに、たまさかに
ながる涙は、人恋ふる涙のそれにもはやあらず……


中原中也 1934 「山羊の歌」



出典:中原中也全詩集 P.124 1972 角川書店


関連記事 : 「羊の歌 I
羊の歌 II
羊の歌 III


改訂:2018.06.19 表題等原典と整合 レイアウト更新
2024.04.23 関連記事リンクURL修正, 詳細レイアウト変更

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