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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2018-03-19

中原中也「また来ん春……」


中原中也「在りし日の歌」より




また来ん春……


また來ん春と人は云ふ
しかし私は辛いのだ
春が來たつて何になろ
あの子が返つて來るぢやない

おもへば今年の五月には
おまへを抱いて動物園
象を見せてもにやあといひ
鳥を見せてもにやあだつた

最後に見せた鹿だけは
角によつぽど惹かれてか
何とも云はず 眺めてた

ほんにおまへもあの時は
此の世の光のたゞ中に
立つて眺めてゐたつけが……


中原中也 1938 在りし日の歌


出典:中原中也全詩集 P.258 1972 角川書店


注)来ん= 来【カ変】未然形 来る(ことになる 予定の はずの)

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