また来ん春……
また來ん春と人は云ふ
しかし私は辛いのだ
春が來たつて何になろ
あの子が返つて來るぢやない
おもへば今年の五月には
おまへを抱いて動物園
象を見せても猫といひ
鳥を見せても猫だつた
最後に見せた鹿だけは
角によつぽど惹かれてか
何とも云はず 眺めてた
ほんにおまへもあの時は
此の世の光のたゞ中に
立つて眺めてゐたつけが……
しかし私は辛いのだ
春が來たつて何になろ
あの子が返つて來るぢやない
おもへば今年の五月には
おまへを抱いて動物園
象を見せても猫といひ
鳥を見せても猫だつた
最後に見せた鹿だけは
角によつぽど惹かれてか
何とも云はず 眺めてた
ほんにおまへもあの時は
此の世の光のたゞ中に
立つて眺めてゐたつけが……
中原中也 1938 在りし日の歌
出典:中原中也全詩集 P.258 1972 角川書店
注)来ん= 来【カ変】未然形 来る(ことになる 予定の はずの)
注)来ん= 来【カ変】未然形 来る(ことになる 予定の はずの)
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