言葉なき歌
あれはとほいい處にあるのだけれど
おれは此處で待つてゐなくてはならない
此處は空気もかすかで蒼く
葱の根のやうに仄かに淡い
決して急いではならない
此處で十分待つてゐなければならない
處女の眼のやうに遥かを見遣つてはならない
たしかに此處で待つてゐればよい
それにしてもあれはとほいい彼方で夕陽にけぶつてゐた
號笛の音のやうに太くて繊弱だつた
けれどもその方へ驅け出してはならない
たしかに此處で待つてゐなければならない
さうすればそのうち喘ぎも平静に復し
たしかにあすこまでゆけるに違ひない
しかしあれは煙突の煙のやうに
とほくとほく いつまでも茜の空にたなびいてゐた
おれは此處で待つてゐなくてはならない
此處は空気もかすかで蒼く
葱の根のやうに仄かに淡い
決して急いではならない
此處で十分待つてゐなければならない
處女の眼のやうに遥かを見遣つてはならない
たしかに此處で待つてゐればよい
それにしてもあれはとほいい彼方で夕陽にけぶつてゐた
號笛の音のやうに太くて繊弱だつた
けれどもその方へ驅け出してはならない
たしかに此處で待つてゐなければならない
さうすればそのうち喘ぎも平静に復し
たしかにあすこまでゆけるに違ひない
しかしあれは煙突の煙のやうに
とほくとほく いつまでも茜の空にたなびいてゐた
中原中也 1938 在りし日の歌
出典:中原中也全詩集 P.254 1972 角川書店
参照:日本現代詩大系 第九巻 1951 河出書房
注)處=ところ
注)此處=ここ
注)蒼く=あおく
注)葱=ねぎ
注)仄か=ほのか
注)遥か=はるか
注)見遣つて=みやって
注)彼方=かなた
注)號笛=軍艦上で号令をかける際に鳴らす合図の笛
注)フイトル=意味不明 出典の誤植か (土のちり)
フィフル =参照図書 P.266 掲載の同じ詩に振られたルビ(仏 Fifre: 短い横笛)
注)繊弱=せんじゃく
注)喘ぎ=あえぎ
注)茜=あかね
参照:日本現代詩大系 第九巻 1951 河出書房
注)處=ところ
注)此處=ここ
注)蒼く=あおく
注)葱=ねぎ
注)仄か=ほのか
注)遥か=はるか
注)見遣つて=みやって
注)彼方=かなた
注)號笛=軍艦上で号令をかける際に鳴らす合図の笛
注)フイトル=意味不明 出典の誤植か (土のちり)
フィフル =参照図書 P.266 掲載の同じ詩に振られたルビ(仏 Fifre: 短い横笛)
注)繊弱=せんじゃく
注)喘ぎ=あえぎ
注)茜=あかね
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