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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2016-07-27

中原中也「夏は青い空に……」


中原中也「未刊詩篇」より




  夏は青い空に……

    夏は青い空に、白い雲を浮ばせ、
     わが嘆きをうたふ。
    わが知らぬ、とほきとほきとほき深みにて
     青空は、白い雲を呼ぶ。

    わが嘆きわが悲しみよ、かうべを昂(あ)げよ。
     ――記憶も、去るにあらずや……
    湧き起る歓喜のためには
     人の情けも、小さきものとみゆるにあらずや

    ああ、神様、これがすべてでございます、
     尽すなく尽さるるなく、
    心のままにうたへる心こそ
     これがすべてでございます!

    空のもと林の中に、たゆけくも
     仰(あほ)ざまに眼(まなこ)をつむり、
    白き雲、汝(な)が胸の上(へ)を流れもゆけば、
     はてもなき平和の、汝がものとなるにあらずや

             中原中也 1968「中原中也詩集」角川書店


注)たゆけくも → たゆけし = 疲れて力がない。だるい。(三省堂大辞林)

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