夜半の嵐
松吹く風よ、寒い夜の
われや憂き世にながらへて
あどけなき、吾子をしみればせぐくまる
おもひをするよ、今日このごろ。
人のなさけの冷たくて、
真はまことに響きなく……
松吹く風よ、寒い夜の
汝より悲しきものはなし。
酔覚めの、寝覚めかなしくまずきこゆ
汝より悲しきものはなし。
口渇くとて起出でて
水をのみ、渇きとまるとみるほどに
吹き寄する風よ、寒い夜の
喀痰すれば唇寒く
また床に入り耳にきく
夜半の嵐の、かなしさよ……
それ、死の期もかからまし
われや憂き世にながらへて
あどけなき、吾子をしみればせぐくまる
おもひをするよ、今日このごろ。
人のなさけの冷たくて、
真はまことに響きなく……
松吹く風よ、寒い夜の
汝より悲しきものはなし。
酔覚めの、寝覚めかなしくまずきこゆ
汝より悲しきものはなし。
口渇くとて起出でて
水をのみ、渇きとまるとみるほどに
吹き寄する風よ、寒い夜の
喀痰すれば唇寒く
また床に入り耳にきく
夜半の嵐の、かなしさよ……
それ、死の期もかからまし
中原中也 1934 未刊詩篇
出典:中原中也全詩集 P.806 1972 角川書店
注)われや=我〈人称代名詞・私〉+や〈間投助詞・前の体言を次に結び語調を整える〉(全訳) "我は"の意(土のちり)
注)憂き世=うきよ つらいこの世 苦しみの多いこの世(全訳)
注)吾子=あこ〈名〉わが子 自分の子(大辞泉)
注)…し=〈副助詞・強意〉(全訳) …こそ(土のちり)
注)せぐくまる= (古:せくぐまる)跼まる〈動ラ五(四)・終止〉からだを前へかがめ、背を丸くする(大辞泉) うなだれ身が縮む(土のちり)
注)…よ= 〈間投助詞・感動/詠嘆〉(全訳) …なぁ(土のちり)
注)真=しん〈名〉うそや偽りでないこと にせものでないこと(大辞泉)
注)響き=〈名〉音がひびくように作用が及ぶこと(大辞泉)
注)きこゆ=聞こゆ〈きこ(語幹)・自動ヤ行下二段・終止〉聞こえる(全訳)
注)咯痰=喀痰 かくたん〈名〉痰を吐くこと(大辞泉)
注)かからまし=かから〈かかる・自動ラ行四段・未然・攻め寄せる/襲う〉+まし〈まし・助動特殊・終止・推量・だろう〉(全訳) 襲いかかるだろう(土のちり)
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