Click Icon or Scroll up

Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2018-11-28

中原中也「夜半の嵐」


中原中也 未刊詩篇より




夜半の嵐



松吹く風よ、寒い
われや憂き世にながらへて
あどけなき、吾子あこをしみればせぐくまる
おもひをするよ、今日このごろ。

人のなさけの冷たくて、
しんはまことに響きなく……
松吹く風よ、寒い
なれより悲しきものはなし。

酔覚めの、寝覚めかなしくまずきこゆ
なれより悲しきものはなし。
口渇くとて起出でて
水をのみ、渇きとまるとみるほどに
吹き寄する風よ、寒い夜の

喀痰すればくち寒く
またとこに入り耳にきく
夜半の嵐の、かなしさよ……
それ、死のときもかからまし


中原中也 1934 未刊詩篇



出典:中原中也全詩集 P.806 1972 角川書店


注)われや=我〈人称代名詞・私〉+や〈間投助詞・前の体言を次に結び語調を整える〉(全訳) "我は"の意(土のちり)
注)憂き世=うきよ つらいこの世 苦しみの多いこの世(全訳)
注)吾子=あこ〈名〉わが子 自分の子(大辞泉)
注)…し=〈副助詞・強意〉(全訳) …こそ(土のちり)
注)せぐくまる= (古:せくぐまる)跼まる〈動ラ五(四)・終止〉からだを前へかがめ、背を丸くする(大辞泉) うなだれ身が縮む(土のちり)
注)…よ= 〈間投助詞・感動/詠嘆〉(全訳) …なぁ(土のちり)
注)真=しん〈名〉うそや偽りでないこと にせものでないこと(大辞泉)
注)響き=〈名〉音がひびくように作用が及ぶこと(大辞泉)
注)きこゆ=聞こゆ〈きこ(語幹)・自動ヤ行下二段・終止〉聞こえる(全訳)
注)咯痰=喀痰 かくたん〈名〉痰を吐くこと(大辞泉)
注)かからまし=かから〈かかる・自動ラ行四段・未然・攻め寄せる/襲う〉+まし〈まし・助動特殊・終止・推量・だろう〉(全訳) 襲いかかるだろう(土のちり)



0 件のコメント:

コメントを投稿

      ********** 投稿要領 **********
1. [公開] ボタンは記入内容を管理者宛に送信し即公開はしません
 (サイト劣悪仕様により当該文字列変更不能)
2. 非公開希望の場合もその旨記述しこのボタンで送信して下さい
3. 送信された記述内容は管理者の承認を経て原則公開されます
4. 反公序良俗, 政治的偏向過剰, 宣伝, 広告, スパム等は不可
      **********************************