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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2018-04-21

中原中也「幼なかりし日」

未刊詩篇より




幼なかりし日




・・・・・・・・・・
在りし日よ、幼なかりし日よ!
春の日は、苜蓿うまごやし 踏み
靑空を、追ひてゆきしにあらざるか?

いまははた、その日その草の、
何方いづちの里を急げるか、何方の里にそよげるか?
すずやかの、昔ならぬ音は呟き
電線は、心とともに空にゆきしにあらざるか?

町々は、あやに翳りて、
厨房は、整ひたりしにあらざるか?
過ぎし日は、あやにかしこく、
その心、疑惧うたがひのごとし。

さはれ人けふもみるがごとくに、
  子等の背はまろく
  子等の足ははやし。
……人けふも、けふも見るごとくに。

(一九二八・一・二五)   


中原中也 1907-1937「未刊詩篇」より


出典:中原中也全詩集 P.512 1972 角川書店

注)翳りて=かげりて 陰って
注)うまごやし=シロツメクサの俗称 地中海原産 江戸時代に渡来
注)いまははた=いまはた 今となってはもう
注)すずやかの=涼やかな すがすがしくさわやかな
注)呟き= つぶやき
注)あやに=何とも不思議に
注)あやにかしこく=何とも不思議で恐れ多い(脅威を感じる)
注)疑惧=ぎぐ 疑い
注)さはれ=そうではあるが しかし


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