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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2018-04-10

中原中也(吹く風を心の友と)


未刊詩篇より




(吹く風を心の友と)


吹く風を心の友と
口笛に心まぎらはし
私がげんげ田を歩いてゐた十五の春は
煙のやうに、野羊のやうに、パルプのやうに、

とんで行つて、もう今頃は、
どこか遠い別の世界で花咲いてゐるであらうか
耳を澄ますと
げんげの色のやうにはじらひながら遠くに聞こゑる

あれは、十五の春の遠い音信なのだらうか
にじむやうに、日が暮れても空のどこかに
あの日の昼のまゝに
あの時が、あの時の物音が經過しつつあるやうに思はれる

それが何處か?――とにかく僕に其處へゆけたらなあ……
心一杯に懺悔して、
恕されたといふ気持の中に、再び生きて、
僕は努力家にならうと思ふんだ――


中原中也 1907-1937「未刊詩篇」より


出典:中原中也全詩集 P.512 1972 角川書店

注)げんげ = レンゲ の正しい名称
注)野羊 = やぎ
注)何處 = どこ
注)其處 = そこ
注)懺悔 = ざんげ
注)恕され = ゆるされ


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