(吹く風を心の友と)
吹く風を心の友と
口笛に心まぎらはし
私がげんげ田を歩いてゐた十五の春は
煙のやうに、野羊のやうに、パルプのやうに、
とんで行つて、もう今頃は、
どこか遠い別の世界で花咲いてゐるであらうか
耳を澄ますと
げんげの色のやうにはじらひながら遠くに聞こゑる
あれは、十五の春の遠い音信なのだらうか
滲むやうに、日が暮れても空のどこかに
あの日の昼のまゝに
あの時が、あの時の物音が經過しつつあるやうに思はれる
それが何處か?――とにかく僕に其處へゆけたらなあ……
心一杯に懺悔して、
恕されたといふ気持の中に、再び生きて、
僕は努力家にならうと思ふんだ――
口笛に心まぎらはし
私がげんげ田を歩いてゐた十五の春は
煙のやうに、野羊のやうに、パルプのやうに、
とんで行つて、もう今頃は、
どこか遠い別の世界で花咲いてゐるであらうか
耳を澄ますと
げんげの色のやうにはじらひながら遠くに聞こゑる
あれは、十五の春の遠い音信なのだらうか
滲むやうに、日が暮れても空のどこかに
あの日の昼のまゝに
あの時が、あの時の物音が經過しつつあるやうに思はれる
それが何處か?――とにかく僕に其處へゆけたらなあ……
心一杯に懺悔して、
恕されたといふ気持の中に、再び生きて、
僕は努力家にならうと思ふんだ――
中原中也 1907-1937「未刊詩篇」より
出典:中原中也全詩集 P.512 1972 角川書店
注)げんげ = レンゲ の正しい名称
注)野羊 = やぎ
注)何處 = どこ
注)其處 = そこ
注)懺悔 = ざんげ
注)恕され = ゆるされ
注)げんげ = レンゲ の正しい名称
注)野羊 = やぎ
注)何處 = どこ
注)其處 = そこ
注)懺悔 = ざんげ
注)恕され = ゆるされ
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