「在りし日の歌」より
雪の賦
雪が降るとこのわたくしには、人生が、
かなしくもうつくしいものに――
憂愁にみちたものに、思へるのであつた。
その雪は、中世の、暗いお城の塀にも降り、
大高源吾の頃にも降つた……
幾多々々の孤児の手は、
そのためにかじかんで、
都會の夕べはそのために十分悲しくあつたのだ。
ロシアの田舎の別荘の、
矢來の彼方に見る雪は、
うんざりする程永遠で、
雪の降る日は高貴の夫人も、
ちつとは愚痴でもあろうと思はれ……
雪が降るとこのわたくしには、人生が
かなしくもうつくしいものに――
憂愁にみちたものに、思へるのであつた
かなしくもうつくしいものに――
憂愁にみちたものに、思へるのであつた。
その雪は、中世の、暗いお城の塀にも降り、
大高源吾の頃にも降つた……
幾多々々の孤児の手は、
そのためにかじかんで、
都會の夕べはそのために十分悲しくあつたのだ。
ロシアの田舎の別荘の、
矢來の彼方に見る雪は、
うんざりする程永遠で、
雪の降る日は高貴の夫人も、
ちつとは愚痴でもあろうと思はれ……
雪が降るとこのわたくしには、人生が
かなしくもうつくしいものに――
憂愁にみちたものに、思へるのであつた
中原中也 1938 在りし日の歌
出典:中原中也全詩集 P.230 1972 角川書店
注)賦 = ふ 比喩などを用いず感じたことをありのままに詠む叙述法 (2/11補遺)
注)大高源吾:おおたかげんご 赤穂浪士 俳諧の造詣深く 号は 子葉
注)矢来 = やらい 木・竹などを組んだ垣
注)大高源吾:おおたかげんご 赤穂浪士 俳諧の造詣深く 号は 子葉
注)矢来 = やらい 木・竹などを組んだ垣
改訂:2018.07.09 レイアウト更新 :原典に合わせ 本文ルビ削除 旧仮名遣い/旧字体に変更 原典頁誤記訂正
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