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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2017-01-30

中原中也「米子」


中原中也「在りし日の歌」より





米子


二十八歳のその處女むすめは、
肺病やみで、は細かつた。
ポプラのやうに、人も通らぬ
歩道に沿つて、立つてゐた。

處女むすめの名前は、米子と云つた。
夏には、顔が、汚れてみえたが、
冬だの秋には、きれいであつた。
――かぼそい聲をしておつた。

二十八歳のその處女むすめは、
お嫁に行けば、その病気は
癒るかに思はれた。と、さう思ひながら
私はたびたび處女むすめをみた……

しかし一度も、さうと口には出さなかつた。
別に、云ひ出しにくいからといふのでもない
云って却つて、落膽させてはと思つたからでもない、
なぜかしら、云はずじまひであつたのだ。

二十八歳のその處女むすめは、
歩道に沿って立つてゐた、
雨あがりの午後、ポプラのやうに。
――かぼそい声をもう一度、聞いてみたいと思ふのだ……


中原中也 1938 「在りし日の歌」


注)腓 = こむら ふくらはぎ

出典:中原中也全詩集 P.271 1972 角川書店



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