女 よ
女よ、美しいものよ、私の許にやつておいでよ。
笑ひでもせよ、嘆きでも、愛らしいものよ。
妙に大人ぶるかと思ふと、すぐまた子供になつてしまふ
女よ、そのくだらない可愛いい夢のままに、
私の許にやつておいで。嘆きでも、笑ひでもせよ。
どんなに私がおまへを愛すか、
それはおまへにわかりはしない。けれどもだ、
さあ、やつておいでよ、奇麗な無知よ、
おまへにわからぬ私の悲愁は、
おまへを愛すに、かへつてすばらしいこまやかさとはなるのです。
さて、そのこまやかさが何處からくるともしらないおまへは、
欣び甘え、しばらくは、仔猫のやうにも戯れるのだが、
やがてもそれに飽いてしまふと、そのこまやかさのゆゑに
却ておまへは憎みだしたり疑ひ出したり、つひに私に叛くやうにさへもなるのだ、
おゝ、忘恩なものよ、可愛いいものよ、おゝ、可愛いいものよ、忘恩なものよ!
(一九二八・一二・一八)
中原中也 1907-1937 未刊詩篇
出典:中原中也全詩集 P.436 1972 角川書店
注)欣び=喜び
改訂:2019.09.05 ルビ表記方法誤記訂正
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