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Cogito


東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の, こだまし, 雲に入り, 野末にひびき
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

2018-12-27

中原中也「冬の日」


中原中也 未刊詩篇より




冬の日



私を愛する七十過ぎのお婆さんが、
暗い部屋で、坐つて私を迎へた。
外では雀が樋に音をさせて、
冷たい白い冬の日だつた。

ほのかな下萠の色をした、
風も少しは吹いてゐるのだつた、
私は自信のないことだつた、
紐を結ぶやうな手付をしてゐた。

とぎれとぎれの口笛が聞こえるのだつた、
下萠の色の風が吹いて。

あゝ自信のないことだつた、
紙魚たこが一つ、颺つてゐるのだつた。


中原中也 1934 未刊詩篇



出典:中原中也全詩集 P.430 1972 角川書店


注)この「冬の日」と郷」の二つの詩は、河上徹太郎氏への手紙に同封されたのが初出といわれ、同じ時期に書かれたものと思われます。また、同じ機会に詠まれたかのように、いくつかの共通点が窺えます。
注)樋=とい 雨樋
注)下萠=したもえ 下萌え 植物が地表に芽を出すようす その時期
注)紙魚=たこ 凧
注)颺つて=あがって 揚がって



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